データシートのパラメータを理解する:温度特性

半導体デバイスのデータシートには「熱特性」と呼ばれる項目があり、さまざまな動作ポイントや条件における、熱に関連した挙動に関する情報が記載されています。設計者は回路を安全かつ確実に動作させるために、これらのパラメータの意味を理解する必要があります。特に、パラメータの記載方法はデバイスメーカーによって異なることがあるので注意が必要です。この記事ではNexperiaがデータシートでどのように熱に関するパラメータを定義しているかを説明します。

熱抵抗についての理解を深める

"熱抵抗Rthとは、デバイスが直流で一定の電力を消費したときにどれだけ発熱するかを示すDCパラメータで、単位はK/W(または℃/W)で表します。
熱抵抗は1Wあたりの温度上昇を示すパラメータなので、どちらの単位も同等です。
図1はクリップボンドに封止された典型的なデバイスの断面における主要な熱流経路を示しており、添え字「j-x」はジャンクションから測定ポイントまでの温度差を表しています。"
 

 

図1:デバイス断面における放熱経路
図1:デバイス断面における放熱経路

"Nexperiaではデバイスの熱特性を2種類の熱抵抗で表示しています。
1つ目はデバイスのジャンクション部から周辺環境まで(j-a)の熱抵抗、2つ目はジャンクション部からカソードのはんだ接合部まで(j-sp)の熱抵抗です(図1)。"

ジャンクション部から筐体上面までの副次的な熱経路も示されています。これはCCPAK12などの上部冷却パッケージを検討する際に重要になります。一方、表面実装デバイス(SMD)ではジャンクション部からプリント基板上のはんだ箇所までが主要な熱経路となります。したがって、Rth(j-a)を使用してベンダー間でパッケージを比較する場合、Rth(j-a)への影響が大きいPCBボードの種類やフットプリントなどのパラメータを確認することが重要です。ここではNexperiaのトレンチショットキーダイオード「PMEG45T20EXD-Q」(45V、2A)を例に、直流条件下の熱特性を説明します(表1)。

Nexperiaでは2種類の実装条件でRth(j-a)の値を提示しています。1つ目は放熱経路が限られているため熱抵抗が最も大きい数値となる、標準的なフットプリントでの値です。2つ目はカソードに1cm²のヒートシンクを設置した場合の値です。

Rth(j-sp)はジャンクション部からリードフレームを経てカソードタブのはんだ箇所に至るまでの熱伝導特性を表しています。そのため、PCBの種類やフットプリントの影響を受けませんので、実装条件の記載はありません。

表1:Nexperia製ショットキーダイオード「PMEG45T20EXD-Q」の熱特性
表1:Nexperia製ショットキーダイオード「PMEG45T20EXD-Q」の熱特性

熱暴走の防止

図2は連続消費電力1.07Wで動作するダイオード「PMEG45T20EXD」を赤外線カメラで撮影したサーマルイメージです。1枚目は標準的なフットプリント、2枚目は1cm²のヒートシンクを使用したもので、ヒートシンクの効果は明らかです。熱平衡時の温度差は30℃以上に達します。なお、赤外線カメラが捉えているのは上面温度のみであり、ジャンクション部の実際の温度は表示されている値よりも高くなります。

図2:標準的なフットプリント(上)とヒートシンクを使用した場合(下)の放熱を示すサーマルイメージ
図2:標準的なフットプリント(上)とヒートシンクを使用した場合(下)の放熱を示すサーマルイメージ

ダイオードのリーク電流による逆電力損失がパッケージの許容損失を上回ると、故障することがあります。これを「熱暴走」と呼びます。熱暴走を防ぐために、電力損失量は以下の式を満たす範囲に抑える必要があります。

サーマルインピーダンスの使用

熱抵抗Rthは定常的で途切れることの無い電力による挙動を表します。デバイスの損失が動的に変化する場合、サーマルインピーダンス(「Zth」と表記)が使われます。Zth(j-x)は動的パラメータであるため、図3のPMEG45T20EXD-Qではデューティ・サイクルのON時間の関数として表示されています。なお、デューティ・サイクル0はシングルパルス動作、デューティ・サイクル1はDC動作を示します。

図3:PMEG45T20EXD-QのZth(j-a)の代表値(パルス持続時間とデューティ・サイクルによって変動)
図3:PMEG45T20EXD-QのZth(j-a)の代表値(パルス持続時間とデューティ・サイクルによって変動)

グラフから、このデバイスが小さいデューティ・サイクルや短時間のパルスにおいて比較的大きな電力損失に耐えられることが分かります。下の式は一定量の電力損失に対するジャンクション部温度の上昇を記述しています(ただしPdissはダイオードの損失電力)。

Zth(j-x)はデバイスが過渡的な熱現象に対してどのように反応し、持続時間の長いパルスにおいてどのように熱抵抗Rthに収束するかを示します。定常状態では、上記の式は以下のようになります。

まとめ

一般的に、半導体メーカーのデータシートにある「熱特性」セクションには熱抵抗のパラメータが記載されています。回路設計の際に最適な熱特性を活用できるよう、このパラメータに関して詳しく説明してまいりました。さらに詳しく知りたい場合は、Nexperiaの『Diode Application Handbook(ダイオード・アプリケーション・ハンドブック)』をご覧ください。

 

 

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